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なお、一つの製鉄所で使用されている独自プログラムを合わせると数千万ステップ規模になり、鉄鋼メーカー全体では億ステップ単位の大きさになる。これらを開発・改良・保守するために、鉄鋼メーカーでは専任のスタッフを多数抱えていた。鉄鋼メーカーのグループ会社に新日鉄ソリューションズなど比較的大規模な情報関連企業が存在するのは、こうした理由による。 鉄鋼製品が出来上がるまでには、原料ヤードの鉱石から最終製品倉庫までいくつもの工場を原材料が移動する。その度に形状や温度・重量などが目まぐるしく変化しており、それぞれの段階で如何に適切な方法で迅速に輸送するかが求められる。また、広大な敷地内を1日のべ数十万tもの物資と数千人単位の人が移動しており、それを効率よくかつ安全に行うことが、製鉄所の競争力を左右する。さらには、完成した製品を保管し、それを的確に出荷する能力も、近年重要度が増している。こうした理由から、製鉄所にとって物流の効率化は常に重要なテーマである。 重量物を輸送する場面(溶銑を運ぶトーピードカーは、満載時1両250tになることもある)が多いため、多くの製鉄所では鉄道が重要な役割を果たしており、場内に数十kmにおよぶ線路網を持つ製鉄所もある。常に変動する工程状況に柔軟に対応して輸送能力を確保するため、新幹線のCTC並のコントロールシステムを保有するケースもある。また、極めて特殊な形態の車両が多い(トーピードカー、鋼滓鍋台車(通称)や熱片輸送車など)。また、トーピードカーを連結して運行する場合、1編成が1000t近くに達する場合もあるなど、かなりの負荷が軌道にかかる。このため、例えば鉄製枕木や特殊な犬釘を使用するなど、軌道の整備には細心の注意を払っている。最近では短距離の熱片輸送には一種のリニアモーターカーが使用されるケースもあり、極めて地味な部門ではあるものの、製鉄所における鉄道も着実に進化を遂げている。 また、道路を用いた輸送も重要である。場内専用車の中には積載量100tを超える車両も珍しくない。一部の製鉄所では、玉掛作業を削減するために専用のパレット台車を開発して、それを移動させる専用の車両を配備している。こうした車両を安全に移動させるため、場内には各所に信号機はもちろん、警備部門が「ネズミ取り」をしている光景を見かけることすらある。製鉄所からの出荷にもトレーラーが活躍している。ただし、積載重量規制の厳格化に伴い、使用車両数が増加したため、車両の不足が発生すると同時に環境負荷も増大している。こうした問題をどう解決するかが、今後の課題である。 海上輸送は今も鉄鋼業において輸送手段の主流であり、製鉄所の岸壁には常時様々な船が接岸している。原料の輸入には10万トンを超える大型のバラ積み船が用いられることが多い。積荷の鉱石や石炭を迅速に荷揚げするため、各製鉄所では様々な工夫が取られている。製品の出荷には、中型の内航船や一般貨物船を用いることが多い。最近では玉掛作業を低減するためにRO-RO船の導入も進んでいる。これら船舶の動向は、しばしば人工衛星を用いた追跡・配船システムで管理されている。 製鉄所にある半製品・製品の所在を常に把握することは、その物量の多さと敷地の広大さなどで意外と大変な作業である。製鉄所では製品に物理的に荷札を付ける他、以前からバーコードをつけるなどして、現品が相違ないように管理していた。また最近では、PHSを用いた所在地確認システムや、ICタグを用いた現品確認システムも実用化されつつある。 製鉄所を稼働させると、FX 製品以外にも様々なモノが発生する。それらのうち、前項までに登場していないもので、比較的市民生活に身近な項目を取り上げる。 石炭をコークスに加工する際、コークスガスと呼ばれる大量のガスが発生する。このガスは精製されて工場の燃料として用いられるが、精製の際発生する多種の化学物質は、製鉄所内の設備で分離・精製され、工業原料として販売されている。乾電池や工業用電極の材料となるピッチや、各種化学物質の原料となるタールは、多くが製鉄所で製造されている。また、窒素系化合物は加工されて、良質の肥料として販売されている。製鉄所内に化学工場で見かける分留塔が林立する様は少々場違いな光景だが、高炉系鉄鋼メーカーが保有する化学部門は、中堅化学メーカーとほぼ同じ規模である。 製銑や製鋼工程を中心に、鉄鉱石の「石」の成分がその他の不純物と共に凝固してスラグが発生する。かつてのスラグは廃棄物扱いだったが、現在では様々な用途が開発されている。 高炉セメントは、高炉で発生したスラグを骨材にしたセメントで、古くから利用されていた。適度な強度と伸縮度の小ささが特色。現在ではJIS(日本工業規格)にも登録され、土木向けなどに広く用いられている。また、最近ではスラグを原料とした煉瓦・消波ブロックや、吸水性を持たせた道路の舗装材などの開発が進み、土木資材の原料としてのスラグの地位はさらに高まっている。なお、製鉄所内で大量に使われている耐火煉瓦は、補修の際に適宜更新されるが、その際取り外された耐火煉瓦はそのまま下取りされて一般向けに再利用されることが多い(製鉄所で用いられる耐火煉瓦は高グレード品なので、割れさえなければ一般用途には十分)。 スラグを特殊な装置で石綿状の繊維に加工した物をロックウールと呼ぶ。ロックウールは、優れた耐熱性・保温性・吸音性を活かして、住宅の断熱・吸音材として需要が増えている。また、石綿に見られる呼吸器障害の発生がないことから、工業部門でも広く利用されている。 スラグには大量の珪酸塩が含まれることから、これを粉砕することで肥料として販売されている。また、海中にスラグ製の魚礁を設置することで、海藻類の生育を促し、漁場の育成に繋がる可能性があり、現在研究が進んでいる。 製鉄所で発生したガスを精製する際、あるいは先物取引 を処理する際、大量の硫黄が発生する。これらの多くは石膏として回収され、広く市販されている。また、硫酸として回収された物は、そのまま外販される他、製鉄所内でも広くリサイクル利用される。もちろん、硫黄そのものに精製されることもあり、様々な工業原料に用いられる。 製鉄所内で大量に用いられた水は、場内にある巨大な設備で処理されて、再利用される。この処理の際、大量のスケール(鉄を加熱した際に発生する酸化鉄の一種)が大量に回収される。回収されたスケールは、焼結鉱の原料として焼結され、製鉄原料としてリサイクルされている。一部の製鉄所では、このスケールを粉砕・加工することで微細な鉄粉を製造している。鉄粉は粉末冶金に欠かせない材料として幅広い分野で用いられる他、身近なところでは使い捨てカイロの発熱材として活躍している。 製鉄所はそれひとつが小さな都市といって差し支えない程度の地理的・経済的規模を持つ。このため、近隣の地域社会にとって、製鉄所は良くも悪くも無視できない存在になっている。一方、製鉄所にとっては、よき企業市民として近隣社会とどう向き合うかが、その開設当初から大きな課題であった。 今後はおそらくありえないが、かつて国内に一貫製鉄所を誘致することは、その自治体にとって将来の命運をかけた大事業だった。当時の川崎製鉄が水島製鉄所の建設を決断するにあたって、岡山県と広島県が盛んな誘致合戦を繰り広げたことは有名。 現在においても、地元自治体にとって製鉄所の存在は、行政全般に無視できない存在であることに違いはない。 しばしば地元自治体にとって製鉄所は、その最大の収入源である。広大な土地や膨大な設備群にかかる固定資産税は莫大であり、安定した課税対象である。また、好況時には地方法人税も莫大な額になり、鉄鋼業界の景況がそのまま地元自治体の財政に反映することも少なくない(企業城下町)。このほか社員が支払う所得税などを考慮すると、製鉄所から発生する税収の合計は、しばしば地元自治体の10%を超える。