製鉄所の設備は公害規制の対象でもある。多くの製鉄所がその自治体から請われる形でその場所に立地したという経緯はあるが、地元の住民にとっては「公害を出す工場がやってきた」という一面を否定することはできない。現在、日本の製鉄所は世界で最先端の公害防止対策を施しているものの、ここ数年、いくつかの製鉄所で隠蔽事件が発生しているため、公害行政にとって製鉄所は、常に注意すべき存在である。一方で、近年では製鉄所は様々なゴミの処理設備としての一面も有しており、近隣の自治体にとっては製鉄所の持つインフラをどう活用するかが、環境・ゴミ対策にとって重要な要素となっている。 先述のとおり、製鉄所は工業用水や電力など大量の用役を消費する。製鉄所で調達・整備すべきもの以外は製鉄所を誘致した地元自治体が整備している。特に渇水時においては、製鉄所の稼動を止めないために、自治体と製鉄所が懸命に対策を練る。製鉄所が止まるということは、単に一つの企業の活動が停止するだけではなく、身近なところでは製鉄所由来の地元市民への都市ガス供給も停止するなど、意外な部分で市民生活に重大な影響を及ぼしかねないからである。 また、製鉄所の労働組合の一部は、いわゆる組織内議員を地方議会に進出させており、特にコンビナートが所在する都市においては、他の企業の組織内議員と共に会派を結成して、コンビナート労働者のための政策実現を目指している。 鉄鋼業の産業連関は実に幅広く、自動車製造業と並び、全製造業中最大のものの一つとなっている。とくに、様々な製造装置の整備と、製造過程で発生する副産物の活用に関しては、自動車製造業よりさらに幅広いため、一般に同じ生産高の自動車製造工場と製鉄所では、後者の方がより多くの関連企業群を構成する。特に技術を要する分野を除き、製鉄所ではこれらの企業を地場に育成する傾向があり、結果として製鉄所の近郊には多くの企業が軒を連ねている。 これらの企業の大半はいわゆる下請企業であり、製鉄所の発注部門からのコストダウン要請に苦しむことも少なくない。一方で、自動車部品製造下請のような親会社による極端な原価管理が少ないことや、製鉄所向け業務の大半は他の産業にも応用できる(製鉄所で求められる品質基準は極めて厳しいため、製鉄所での作業が認められている・納品が許されているということは、特に地元ではかなりのステイタスを持つ)ことから、製鉄所以外向けの比率を伸ばす企業も多く、このあたりも自動車産業とは多少趣を異にする。製鉄所本体も下請企業の自立にはおおむね好意的であり、実力ある企業は域外への進出を積極的に展開している。 変わったところでは、印刷業(製鉄所内で発行される社員向け広報誌は、多いところでは毎月2万部以上にもなる)や場内の給食・社員や来客送迎用のタクシー(製鉄所の門前には常に10台以上のタクシーが列を成している)・海外からの鉱石運搬船船員のための「海上商店」など、直接製造とは関係ない部門でも、製鉄所はかなりの産業に仕事を提供している。もっとも、飲酒運転の取締が強化されて、製鉄所近隣の飲食店の景気が急速に悪化するなど、時代の変化の波は、こうした部分にも着実に影響を与えている。 なお、製鉄所の持つ基礎技術(特に検査・IT部門)は、多くの地方にとっては最大かつ最高水準のものである。例えば、外国為替 の幾つかでは、その県で最も優れた民生用電子顕微鏡は製鉄所が保有している。最近では地方でもこうした分野での産業交流が注目されており、製鉄所への期待が高まりつつある。 また、製鉄所の持つ豊富な産業資源は、時として地域経済の枠組みを超えた活躍を見せることがある。 一例をあげると、ハワイにあるすばる望遠鏡は、主鏡セルと呼ばれる構造物を熱処理することが、設計上の重要なポイントであった。これは熱処理なしでは構造物に不均等な応力が残存したままになるため、全体として必要な強度を得るためには使用する鋼板の板厚を厚くしないといけない。そうすると今度は全体の重量が増大してしまうため、さらに必要な強度が大きくなってしまう…といういたちごっこの関係があるためである。製作当時、FX で直径約8.8m、重量約20tの巨大な構造物を熱処理(応力除去焼鈍)できる設備は2つしかなく、それはいずれも製鉄所が保有するものだった(世界的に見ても民生用でこれだけの大きさの熱処理設備はほとんど例がない)。 最終的には、主鏡セルの熱処理は旧・川崎製鉄水島製鉄所で行われた。また、主鏡セルの製造自体も、水島製鉄所場内で機械製作やメンテナンスなどを行う関連企業である川鉄鉄構工業が担当した。ここでは超大型工作機械が一つの敷地内に集中して設置されている、巨大構造物の卓越した精密溶接技術を持つ、そもそも材料としての鋼の扱いに慣れている、といった製鉄所関連企業ならではの特徴が活かされた。また、完成した主鏡セルは、次工程の作業場である日立造船桜島工場に海上輸送されたが、ここでも臨海製鉄所という立地のメリットが生かされている。 製鉄所の進出で自分がいわゆる公害病になったと信じる人達にとっては、製鉄所は害悪以外の何者でもない。それ以外の多くの地域住民にとっては、製鉄所は近所にある大きな工場という意識以上のものを持つことは少ない。多くの場合、製鉄所はもともとそこにはない企業のものであり、製鉄所が開設して何十年経とうと、今でも「よそ者」扱いというケースもある。 製鉄所は、公害問題なども意識して、開設当初から地域住民との交流を目的に様々な対応を行っている。製鉄所周辺の寺社を訪問すると、社殿の新築・改築の寄付一覧に製鉄所の名称が記載されていることが多い。公民館・道路照明など、製鉄所が費用を負担している地元インフラは、目立たないながらも多岐に渡っている。 いくつかの製鉄所では年に一度製鉄所場内を市民に開放して、企業祭を開催している。新日本製鉄八幡製鉄所が1901年より行う起業祭は八幡の名物であり、子会社のスピナもふくめ地元では八幡としての大規模な行事である。条鋼工場(レール製造)が公開されたり、地元とスピナが共同で大谷球場に屋台を出す。歌手や子供向け特撮ヒーローのショーや、製造ラインの工場見学などが主な内容だが、大きな祭では公称で10万人以上の来客があり、地元では外為 としてすっかり定着している。地元企業・取引先企業や近隣市町村の名産品コーナーをはじめとする物販コーナーの充実振りは、広大な産業連関を誇る製鉄所ならではのものである。中にはフリーマーケットやプロ棋士を迎えての将棋大会などを行う製鉄所もあり、かなりの賑わいを見せている。なお、かつては梅小路蒸気機関車館から蒸気機関車を敷地内の線路に回送させて試乗させたり、最近では場内の岸壁から遊覧船で製鉄所見学ツアーを実施したりと、製鉄所のインフラを活用したユニークな企画が時折登場する。 また、製鉄所は主に小学校での企業学習の一貫としての工場見学先として重要であり、従来から多くの児童を受け入れていた。特に修学旅行コースに近い製鉄所では、最近では少なくなったものの、かつては毎年5万人以上の児童が見学しており、シーズンになると場内に児童を乗せた観光バスが多数乗り入れていた。今でも多くの製鉄所場内には巨大な見学者受け入れ設備と、見学対応用の専従スタッフが存在する。最近では、環境学習の一貫として、一般市民による見学希望も少しずつ増加しており、製鉄所側も徐々に対応を始めている。